本質ハンター降臨



我が家は毎年、お正月に会社のスタッフ達を自宅に招待している



みんなのスケジュールを考えて、だいたい1月3日か4日頃に開く新年会



狭い我が家に大勢を招待するには、なかなか大掛かりな片付けとセッティングが必要



妻は前々から色々と料理の仕込みをし、子供たちもみんなが来てくれることを楽しみにしている



基本的に家に人を招くことが好きではない妻も、新年会に限っては「日頃のみんなへの感謝の会だから♪」と張り切っている



妻は会社で”マネージャー”というポジション。普段はわりと厳しめのスタンスでスタッフたちに接しているので、砕けて話せる時間も大切にしたいのかもしれない



妻の”主婦の顔”を見たスタッフたちと、年々打ち解けているのがハッキリと見て取れる



僕も嬉しい



今年は何を作ろうかと、一か月前くらいからレシピ本を眺めている妻の可愛らしい一面





そんな新年会



今年の年始に開いた時には珍事件が起きた



この一年間、何度も思い出してしまうくらいの出来事だった



例年通りに我が家に大勢の社員とその子どもたちが集まり、大人も子ども達もワイワイ過ごした



スタッフの一人にYさんという女性がいる



Yさんの印象は物静かだが芯が強く、真面目で几帳面、目立った行動はしないが、気がついた改良点や改善策などを僕にしっかり伝えてくれる頼もしいスタッフの一人



そんなYさんはお気に入りの日本酒を持参して息子さんと一緒に来てくれた



中学生の息子と大好きな「荷札酒」で晴れやか



妻の手料理や、みんなが持ってきてくれたお土産などを広げ乾杯!



子ども達もジュースやお菓子のパラダイスにテンションはマックス!



僕も妻も、スタッフ達への感謝の思いを噛みしめながら楽しく過ごす





みんなのお酒もすすんだころ、Yさんに異変の兆し…



明らかに酔っぱらっている



頬を赤らめながら、それでもまだまだスルスルと呑み続けている



Yさんの隣には、みんなからちょっと恐れられている専務が座っていた



会社に彼が出勤すると空気がピリッとする



僕は彼に「高圧的な空気は必要ない」と何度か注意をしているのだが、本人がこのキャラを手放さない。困ったものだ



雰囲気で分からせようとする傲慢さは欠点、良い人間関係を築くためには直すべきなので、彼に分ってもらえるよう僕なりに関わってきた



そんな専務が、隣に座るYさんからお説教を受けている



普段なら絶対に考えられない光景…しかもお説教はドンピシャで的を射る



「ずーっと思ってたこと言いますね。だいぶ勘違いしてるっていうか、とにかくその怖キャラみたいなのやめたほうがいいですよ。みんな専務を怒らすと根に持つから静かにしてるだけで、実際は怖くも何ともないし。ただ人が自分に遠慮することが好物だっていうことをみんな知っているから合わせてるっていうか、意見を言わないだけって言うか。そーゆーこと気づいてます?いい年して、いつまでも自分の演出を意識するとか、アンタほんとに寒いから!」



普段おとなしいYさんに言われた専務は、いきなりこめかみに飛んできた岩の衝撃に身動きが取れない



すかさず僕はフォローに回るもYさんは止まらない



「社長も専務に甘いですね。設立当初からいるメンバーだからこんなに偉そうにしているんでしょうけど、威張りたいんなら自分の家でやってくれって話ですよ」



ギブ!ギブ!ギブ!K.O!!



これ以上言い続けたら専務が怒ってこの場が台無しになるのではないかと心配になる…



反比例してYさんのお説教はどんどん深入りしていく



「威張りたいって気持ちが丸出しって、自分が弱いですって言ってるようなもんじゃん!恥ずかしくないわけ?ある意味プライドないなーっていつも思ってましたよ。青春時代を引きずってんのか、気の弱さを隠すために必要以上に偉そうにしているのか分からないけど、ほんと嫌いなんだよな、こーゆう男」



専務は受けたダメージを ”酔っ払いの戯言扱い" にしてその場を乗り切ろうと、呆れ顔を装っているが…みんなに焦りを見抜かれている



その態度が余計にYさんに火をつけていると察した専務の取り巻きが、話を逸らそうと必死にその場を取り繕うが、何かが舞い降りているYさんの突破力にあえなく撃沈していく



「オマエも専務の顔色を見て計算高くチョロチョロ動いているだけの曲者だってことはみんな知っているんだよ!いいコンビだ。悟られまいと顔面偽装中の専務とコウモリ野郎のオマエで、私が間違っているところを論破してみろよ。この時代に恐怖政治でみんなが付いてくると思うなよ!時代錯誤のクソ虫が!」



二人とも完全硬直



そんな中、中立でまとめ上手な男性社員が口を出す



「Yさんの言ってること分かります。ずっと思ってました。僕も専務からの当たりが強くて嫌だなって思うことも何度かありました」と言い出した彼に向けてもYさんは一刀両断!



「オマエさ、風向き見て人の意見に乗っかってくんなよ。言いたいことがあるなら自分の口から発信しろ!」



マズイ、マズイ、人の本質をついてくるとんでもない酒乱のお目見えだ!!



スタッフみんなが、何かが降臨したYさんに引いているどころか輝かしいまなざしで見ている。まるでロックスターでも見るかのように…



その場は、どうにかみんなで話の方向転換をし、大きなトラブルには発展せず事なきを得た





専務はしょんぼりしタクシーで帰宅、Yさんは息子の肩に支えられ帰っていく



残ったメンバーは大爆笑



強烈な新年会となった



翌日Yさんから電話があり「昨日はありがとうございました。専務にも言えてスッキリしました。マネージャーにもよろしくお伝えください」と。あれだけ飲んでも記憶はハッキリ



ちなみにズタズタになった専務はと言うと、僕に注意されるよりだいぶ効いたのだろう、年の初めに不意打ち悶絶ボディブローを食らったこの一年、無駄な尖りがだいぶ取れて以前より支持者が少しづつ増えていく



専務とYさんとはアレを機にどんどん意見を言い合える仲になり、二人の関係は悪化するどころか専務にとってはなくてはならない存在になっていた



これぞ雨降って地固まる(笑)



そして女性の強さを改めて感じた、いや、女性の時代はもうとっくに始まっている



だけど、やっぱりお酒はほどほどに…



できれば次の新年会はYさん出場、ロックスターは不出場で願いたい



殻を破ったロボット