あしたのジョーから学ぶ人生観



ボクシングという闘いの舞台で人間の微妙な心境と心情を、丁寧に描写したアニメ



僕は子供の頃、ジョーの「強さ」や「野性的な一面」に目を輝かせたが、大人になると改めて違う角度から魅力を発見する



アニメ「あしたのジョー」ではお互いに認め合った最高のライバル力石徹の死後、ジョーは精神的なショックから体に異変を起こしてしまう場面から「あしたのジョー2」が始まっていく。注目は中盤以降、ジョーにパンチドランカー(パンチを受けた後遺症で脳に障害を生じたボクサー)の疑いがかかる流れからが、ますますヒューマンチックで感慨深い展開になっていく



主役の矢吹丈、丹下段平、ライバルの力石徹、カーロス・リベラやドヤ街の子どもたちなど多くの登場人物はそれぞれの個性と人間味を持っている



その一人一人が疑問と取捨選択を教えてくれる



林紀子(通称のりちゃん)はジョーに想いを寄せる女の子。たまたまジョーと出かけることになったのりちゃんに、めずらしくジョーの口からボクシングへの想いが語りられる。「最後には真っ白な灰だけが残る」の言葉を聞いて「矢吹君にはついていけない」とその日に悟った。後にジョーと同じ丹下ジムに所属するマンモス西と結婚する。結婚相手のマンモス西は昔からの仲間でありジョーに対して家族のような愛情をもっている。ジョーに想いを伝えないままマンモス西と結婚をしたのりちゃん。ジョーとの複雑な距離感、人生に対する世界観の違いが切なく描かれている



ウルフ金串。ジョーと対戦しジョーの放ったトリプルクロスカウンターでマットに沈んだ。ボクサーとして再起不能になったウルフはボクシングを引退しガラの悪い連中の用心棒になった。ジョーとホセ・メンドーサとの世界タイトル前日、ウルフはジョーに以前に借りたお金をそっと、ジョーの住んでいるジムに返しに来た。世界戦前日で眠れなかったジョーは、ウルフに気が付き窓から声をかけ一緒に夜の街に出かける。別れ際ウルフはジョーにエールを贈る。友との会話でジョーはどんな心境になったのか?帰っても眠れないジョーは一晩中サンドバッグと語り合う



ゴロマキ権藤。ガラの悪い連中の用心棒でありケンカのプロ。ジョーの友人ウルフをケンカで圧倒した。ウルフを倒したことでジョーの怒りを買いやられてしまったゴロマキ。だがそれをキッカケに権藤はジョーに対して本物の男を感じ彼の活躍を願うようになる。彼もまた不思議な男の美学に生きている



ドヤ街の子どもたち。ジョーを兄貴と呼び、慕っている。そんな子どもたちにジョーはどんなに悩みや憂鬱があっても元気な姿で応えていく。トン吉、サチ、太郎、キノコ、チュー吉の5人は貧しい家庭環境に置かれ、それぞれが悩みを抱えているがジョーとの出会いで居場所を見つけていく。子供たちと過ごすジョーの姿から、弱者や子供たちに対する素朴で優しい一面が伝わり温かい気持ちになる



須賀清。フリーのルポライター。特ダネを仕込んで新聞や週刊誌に売り込む「トップ屋」。ジョーを“面白い逸材”と捉えジョーを追いかけ関わり続けながら、自身の作品「ドキュメント矢吹丈、狼になろうとした男」を書き溜めるも矢吹丈という一人の男のファンになったため「公平な視点を失った自分には書けない」と判断しドキュメントをお蔵入りにしてしまう。仕事ぶりを見れば “ゆすり・たかり” 的な良くない印象を残す須賀だが、ジョーに対する須賀の姿勢はじつに純粋で真っ直ぐだった



そして最大の宿敵 “ホセ・メンドーサ” 世界中からキング・オブ・キングスと呼ばれる無敗の男。技術、精神面だけでなく哲学者のようなポリシーがありメンタルからも奥深い強さが垣間見える。ジョーとは境遇、性格など対照的なチャンピオン。彼はジョーに対して何を感じ、最後に何を見たのか?



そして矢吹丈。孤児だった彼は幼い時の思い出や孤独を反骨精神にするわけでもなくただ一人いつも遠くを見つめ何かを想うのか?





男とか、女とか、野心とかそんな理屈がまったく意味を持たないジョーの人間性



金、名声、名誉にも興味を示さずひたすらボクシングだけを見つめ続けた男



そんなジョーに周囲が惹きつけられていく



すべてに無関心に見えて誰よりも人に温かい矢吹丈



ジョーの横顔が物語る。どこか寂しそうで切なくて、だけど優しさがあふれている姿を見ると胸の奥から孤独を感じる





子どもの頃はカッコいい主人公を見つけては「自分もこうなりたい」と無邪気に思ったものだが「あしたのジョー」にだけは単純に憧れることはなかった。強くてカッコいいジョーだが深すぎる孤独感のようなものを子供ながらに感じ、なりたいと思わなかったことを鮮明に覚えている



なぜなら彼は「誰も目指さない駅を終点にしている」から



あしたのジョー2の主題歌「ミッドナイト・ブルース」を聴きながら少しだけ矢吹丈の哲学を、生きること、人を想うことの神髄を知る時間は意味深いものになる



観終わったあと胸底で「青い情熱」に触れた気持ちになる素晴らしい作品である





青く輝く花