秘書のお灸



小さな会社を運営している僕には専属の秘書がいるわけではないが、男女ひとりずつの秘書的な存在にサポートをしてもらい日々の業務をしている


ふたりは各々の仕事の合間に僕のスケジュール管理や様々なアシストをしてくれる


男性の彼はものすごく几帳面でとにかくしっかり者、一方の女性はリーダー気質で姉御肌な風格を持っている





先日、姉御肌の彼女にサポートしてもらい会社同士の酒の席に参加した


彼女は一通り挨拶を交わしてから終わり次第、僕を自宅に送るためにカウンターで他の社長の秘書や付き人らしき人達と話をしたりお寿司を食べながらお茶を飲み、時々スマホをいじって時間を過ごしている


僕は彼女に「だいたい9時くらいにはお開きになると思うけど終わらなかったらタイミングをみて帰るようにするから」と宣言


お酒も回り場の温度も上がってきた。そんな時フッと時計を見たらいつの間にか9時半になっていた。話もだいぶ盛り上がっているし、僕も話の歯車の一つになっていたのでもう少し待ってのサインを送ろうとしたら、こっちを怖い目で見ている。ゾッとした。これならタクシーで帰れば良かった。だけど今さらそんなことを言ったらさらなる怒りを買うだろう。しかたなくフェードアウトし車に乗り込む





待たせてしまったことを謝り、次からはタクシーで帰るからと伝えるも、まだ彼女の怒りの口撃は収まる気配をみせない


家に着くまでの時間がやけに長く感じる…


彼女は正論を言っているが少しだけ言い訳の余地をくれないと息苦しい


気のせいか、説教をしながら運転する彼女はなぜか生き生きして見える


やっと自宅付近。やっとスパイシーな空気から解放されるころ彼女はまた語り始めた



「社長って少し周りが見えない時がありますよね。別に今日のことはこれ以上とがめませんが約束した以上時間は守ってもらわないと困ります。それから私以外にも待機している人が居たのでそれも考慮できるともっといいですね。あと、テンポはいまいちでしたが話は面白かったと思いますよ。良かったですね」と



「あ、うん、ごめん、ありがとう」と返事をし彼女に「お疲れさまでした」と告げ頭を下げ、車が見えなくなるまで見送る



まるで時代劇で民がお殿様に声をかけてもらい、あまりの喜びに深々と頭を下げるワンシーンのように





家に入りお風呂でやっと平常心を取り戻す



冷静に考えればいつも彼女の上から目線と飴と鞭で陰陽師の如く操られている



風呂上がりにオロナミンCを飲んで想う



レットブルに味が似てるな…



だれか、ぼくに翼をください



空を見上げる天使