とんでもない法螺吹きがいる
この法螺吹きとは長い付き合いで、僕が起業したての頃、お世話になった不動産屋で働いていた調子のいい男
顔見知りになり、僕が経営しているお店に来てくれたりして、なんとなく友達のような関係になった
通販番組の司会者のようなテンポとノリでどんな場の雰囲気も温める。軽い男というレッテルと引き換えに敵を作らないという人間性
そんな法螺吹きから電話がくる
「会って話がしたい」と重々しい切り口で毎回小銭を借りにくる
妻は奴からの誘いがあると怪訝な顔になる
致し方ない…
揉め事に巻き込まれた過去の残像が拭いきれていないのだろう…
奴が弱者を助けるために背負ってしまった揉め事といえ妻からしたら彼は“トラブルメーカー”でしかないのかもしれない
それもまた事実…しかし分かっちゃいるけど放っておけない
なぜなのか?それは時折見せる純粋な正義感にシンパシーを感じるから
アーケード街の入り口で待ち合わせ
奴を発見。奴は僕を見るや否や「おお若王子」とぬかす
お金が絡まない時は僕のことを「こいつ」とか「このアホ」と呼ぶくせに、頼み事があるときには簡単に手のひらを返せる。どうやら自尊心は風の中に隠してあるらしい
とにかく矢継ぎ早に話す奴は事実とホラのつなぎ目に、絶妙なスパイスを効かせ独特の”間”で話を展開していく。たった数十分の間に笑い過ぎて呼吸が苦しくなってしまうほど…。どうやったらこんなウソの話で人を笑わせられるのか?話の間口も豊富で不思議な才能と話術に長けている
法螺話のコース料理を振る舞った後デザートに「○○から誘いを受けている」だの「○○の経営を始めるかもしれない」などよくありがちな作り話を微妙な薄ら笑いで運んでくる
一応話に乗り「オマエに任せる会社なんてあるわけないだろ」と突っ込むと「王子も見る眼がないなぁ~」と…チャーミングな軽口
インチキ話が一通り終わると「財布忘れたから駐車場代貸して」と千円を要求してくる
「いや、オマエの後ろのポケットに財布が見えてるぞ」と言いたいところだが、これもご愛敬
帰りに手を振りながら距離がある程度離れるとヤツは笑いながら僕に「バ~カ」と言ってくる
そんなお決まりのやり取りも嫌いじゃない
そして時間が経つとまた「若王子~」と電話がくるサイクル
いい加減で、ひょうきんで、だらしなくて度胸がある、やっかいなヤツだ
そんなアイツから最近連絡がない
最後に会ったときは“今日はオレがおごるよ”と珍しい誘いを受け二人で焼き鳥屋で飲んだ
少し元気がなかったような感じがしていたので気にはなっていたが…
心配になり連絡をしてみたが繋がらない…電話が止まっている
共通の知り合いに聞いてもみんな音信不通とのこと
どうしたのかな?
なんかの揉め事に巻き込まれていないよな?
オマエのことだから楽しく暮らしていると思うけどホラ話が聞けない日々に寂しさを感じるよ
オマエがいないと思うとだけで街の温度が少し下がってみえるんだ