高座の滝



数年前、神戸に二週間の主張


土日はすることがない


立て続けに仕事をして早めに帰りたいがそうもいかない


ヒマなので一人で軽くウォーキングでもしょうと思いコース情報を集めた


決めた行先は芦屋市の「高座の滝」


住宅街を抜け山道を歩き続けると、素晴らしい森林が広がり、そこはまるでジブリの世界だという。阪急芦屋川駅から歩いて約4キロ、1時間ほどで素晴らしい別世界に到着する予定




途中は閑静な住宅街を通る


東京の街並みとはまたひと味違う素敵な町だった


どんどん進むと住宅が減り、山道へとつながる樹のトンネル


自然歩道の脇を覗けば断崖、そして豊かな森林


少しずつ上り坂の勾配がきつくなるが空気は澄みきっている


なかなかハードだが気持ちのいいウォーキングだ


汗ばむ身体、一歩一歩を踏みしめる




程なくして雰囲気のあるお店を発見


その名も『滝の茶屋』なんともレトロな売店


ジブリの世界と聞いていたが、この売店は千と千尋のワンシーンを思い出させる


しかもビールと美味しそうなおでんがある


席に座りおでんで一杯はじめた


売店のおばちゃんに聞けば、滝まではまだ上に登るらしい


僕はここをゴールにしたい


自然を満喫したし、ビールを飲んでしまった僕は完全にここで終了モード


僕の心中を知らないおばちゃんは「あんまり飲むとこの先に行けなくなるから」とアルコール強制終了


店を背中にし、右方向は帰り道、左方向は山頂、おばちゃんが笑顔で見送ってくれているので一礼し左方向に足を運んだ




細い登山道をひたすら登った


そしてしばらく歩くと滝の音が聞こえてくる


空気がもっとヒンヤリしてきた


清々しい達成感、登り続けた甲斐があった


気持ちのいい滝のしぶきと綺麗な空気、さらに自然を堪能、売店から駅に戻らなくて良かった




そして気分よく下山する


途中、先程の売店のおばちゃんにも挨拶をし駅を目指す




しばらく歩き、あと数百メートルで森が終わりそうだという頃、前方に異様な気配を感じた


目の前に大きな猪がいる


驚きのあまり自分の口から変な声がでた 


狭い道の真ん中に堂々と佇んでいる




怖い…




猪に出会ったらどうする…なんて対策は知らない


さっきまでちらほら人が行きかっていたのにウソのように誰も通らない


いくら待てども猪は動かない


背中を向けたら追ってくるような気がしたので猪から目を逸らせない


猪もずっと僕を見ている


…………。


太陽に反射している毛色が金色になって神々しくも見える


見ているうちに恐怖と並行して不思議な気持ちになる


静寂の中で「神様の使い」にでも出会ったような感覚


やがて、猪はゆっくりと山に足を向け帰って行った




恐怖と安堵感、そして猪との出会いは売店のおばちゃんが導いてくれた「縁」


様々な時間軸が存在し「運命」となっていくことを改めて感じる


そして阪急芦屋川駅に着く頃、なぜか光のシャワーを浴びたような心境になっていた


自然からメッセージを受け取った素晴らしい日曜日になった



山に差し込む光